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京都地方裁判所 昭和54年(ヨ)340号 決定 1979年6月04日

申請人

中山理々

申請人

橿原信暁

右訴訟代理人

鍛治良道

外三名

被申請人

真宗大谷派

右代表者代表役員

大谷光暢

被申請人

竹内良恵

右訴訟代理人

表権七

外四名

主文

申請人らにおいて、合同して被申請人真宗大谷派に対して金一〇〇万円の、被申請人竹内良恵に対して金二〇万円の、保証をすべて立てることを条件として次のとおり命ずる。

一、被申請人真宗大谷派に対し、被申請人竹内良恵が右大谷派管長名を以つて昭和五四年五月一日付で招集した同年六月六日午前一〇時からの被申請人真宗大谷派宗議会会議場における宗議会の開催はこれを禁止する。

二、被申請人竹内良恵は、前項の招集にかかる宗議会の開催行為をしてはならない。

三、訴訟費用は被申請人らの負担とする。

事実

一  申請の趣旨及び理由

別紙仮処分命令申請書のとおり。

二  被申請人竹内良恵の答弁及び主張

別紙答弁書中「答弁」及び「認否」並びに昭和五四年五月二八日付準備書面のとおり。

三  、被申請人真宗大谷派の答弁

本件仮処分の申請を相当と思料する。

理由

一前提事実

<証拠>によれば、申請書中申請の理由一記載の事実及び被申請人竹内良恵が、被申請人真宗大谷派(以下宗教法人である大谷派も単に「大谷派」という。)の宗議会議員に対し、昭和五四年五月一日付で大谷派管長の名において同年六月六日宗議会(以下「本件宗議会」という。)を招集する旨の宗達を発した事実が疎明される。

二管長、代表役員、宗議会の大谷派における法制

1  管長と代表役員

(一)  <証拠>によれば、次の事実が疎明される。大谷派は、宗教法人法(以下単に「法」という。)上の法人格を有し、法により義務づけられた昭和二七年四月一〇日制定の宗教法人「真宗大谷派」規則(以下「派規則」という。)を有し、また、右法人の母体たる宗教団体(宗教法人法一、二条に定め、宗憲一条で「宗門」と呼ばれる。)大谷派(以下「宗門大谷派」という。)は、団体内部規範として、宗憲(同二一年九月二四日制定)をはじめとする多数の条例等を有しており、その内、宗憲、派規則、が宗門大谷派の基本法規として位置づけられ、宗憲、派規則は相補関係的関係に立ちつつ(宗憲一一三条、一一四条)各種条例の上位法規の関係にある。そして宗憲では、管長は宗門大谷派の主管者、代表者として宗議会招集の他、各種枢要な権限を有しており(宗憲一五条、一八条、一九条)、他方派規則では、法が設置を義務づける(法一二、一八条)法人の代表管理(事務執行総理)機関として代表役員が置かれ、右管長職にある者がこれにあてられる(派規則五条)。

ところで、法は、本来、宗教団体(法一、二条)が宗教活動を十全に遂行できるように、その物的基盤を確立するため法人権を与えることを目的とするもので、このため宗教活動面を法律上の規律対象外とし、同団体の残余の活動面である世俗的側面、すなわち財産的及び団体組織管理面のみを内部面、外部面のすべてについて規律対象とし、右世俗的活動面の最低限の組織活動方式(法三章)に関する規則制定と所轄庁の認証を義務付け(法二章)この義務要件をみたすもののみに法人格付与等の保障をなそうとするものである。したがつて、宗教法人の権限行使の方法は、各宗教団体の特殊性に応じ、他の任意機関を設け意思決定に関与させる等任意の制限等規定しうるとしても、代表役員が唯一の代表機関、かつ執行機関であること、(そして、責任役員集団が法人事務決定機関(これが、補助的執行機関をかねることは差つかえない)であること)は動かしえない宗教法人となるための要件であると解すべきである。叙上のところよりすれば、宗門大谷派は宗教法人法に基く法人格を取得するため、同法の前記の要請により、派規則を制定したものであり、派規則制定以降は、同派の世俗的側面に関してはすべて派規則によることになり、同規則上の法人の管理機関である代表役員がその定められるところに従つて大谷派の「事務を総理する」関係になつたものというべきである。そして、一方派規則制定以前から存在する宗憲は、宗門の信仰的基盤となる教義、儀式、宗教団体としての職能、聖職者の身分、信者の地位等を規定した宗派の根本規範たる基本的性質は変らないものの、派規則が規律すべき同派の宗教団体としての世俗的側面については、その効力を失うか、若くは前記派規則との相補関係より、実質的派規則の内容規定に変質するに至り、と共に従前宗教上、世俗上各種重要な権限を有するとされていた管長は、その権限内容の内、派規則により代表役員の権限と定められた世俗的、組織的側面については、内部面、外部面を問わず、もはやこれを失いすべて、代表役員の権限となつたものとみるべきである。

(二)  ところで、被申請人竹内は、従来の事務処理名義が管長名でなす慣例に基き大谷派の右事務処理権限は管長権限である旨主張(別紙昭和五四年五月二八日付準備面面の二(一)中段)するが、以下のとおり理由がない。

そもそも法人の業務は性質上対外、対内事務というようにかく然と区分された個別の業務に分別されるものではなく、ただ業務執行行為があるのみで、それが法人外の第三者との関係でなされるとき、これを対外的観点から代表ないし対外事務といい、つまるところ一個の業務執行の観点の相違による表現にすぎず、純然たる内部管理事務の如き代表を伴わない業務執行行為も多く存するのである。しかして宗教法人法では代表役員は、法人の業務執行(総理)及び代表機関として唯一、無二のものと定められているから、対内あるいは対外の観点の如何を問わず、それが業務執行行為である以上、その権限は代表役員のみがこれを保有することとなる。したがつて、管長が大谷派において代表役員と同様な業務執行権を権限としてもつ機関として存在することは許されず、他方代表役員がその業務執行権限の一部、例えば前記代表を伴わない管理事務の執行権を内部若くは外部の他の機関に委任し、又は権限行使の補助をさせることは禁じられるものではないが、本件において、大谷派の代表役員が前記代表を伴わない業務に限り宗門大谷派の管長に委任若くは補助関係を設定したと認むべき宗憲上、派規則上の根拠規定は見当らない。また所論の対外事務処理名義に関する慣行があつたとしても、特段の事情がない限り、これから直ちに右委任若くは補助関係の設定を肯定することはできず、かえつてかかる慣行は、永年の管長呼称に対する尊重感、親和感と、宗門「大谷派」が宗教法人法に基く法人となつてからの前記法制の変質について宗団構成員の関心が薄く、法規上も右変質を明文化しなかつた経過及び管長、代表役員が同一人物であつたため地位、権限の分別なく実際上分別の必要に乏しかつたためとも思われ、また右特段の事情も認められない。

2  宗議会

宗議会は、宗憲上も派規則上も共に、宗憲、条例及び派規則の制定及び改廃、予算その他の事項を議決し、決算を審査すること並びに宗務総長を推挙することをその主要な権限内容として定められている機関であるところ(宗憲三〇条ないし三三条、一〇九条、派規則一五条)、派規則における宗議会は、法の管理事務執行に関する前記建前に照らせば法上の任意機関(法一二条一項六号)に該当し、その機関の性格は、法上では代表役員が総理すべき宗教法人の業務執行について、その業務の意思決定機関である責任役員(合議体)の意思決定方法の自己規制として、右業務のうち前記予算、内部法規の定立等重要事項について決議をすべきものとして、派規則上創設された意思決定機関とみるべきである。したがつて、管長と代表役員との前記の関係と同様に、宗憲上の宗議会においても、その権限内容のうち世俗的組織的側面についてはもはやこれを失い、すべて派規則上の宗議会の権限になつたものとみるべきである。

三本件宗議会開催の不適法(無効性)

1  招集権者

(一)  以上の法理によれば、宗憲上管長の権限として規定されていても、派規則上の宗議会である限り、その召集権限は派規則上の機関である代表役員に帰属するものというべきであるところ、<証拠>によれば、本件宗議会は、特定の議題審議のため特別に招集されたものではなく、例年どおり一定の時期に開催され、主に翌年度の予算案、補正予算案等の審議を行うための定期宗議会であり、またここ数年来のこの種の定期宗議会で審議された案件に照らせば、純宗教上の問題(これは本来派規則上の宗議会の審議対象ではない)につき審議することを予定して招集されたものではないことが疎明されるので、本件宗議会は性質上派規則上の宗議会と解するほかなく、招集権限は、管長にはなく代表役員の権限に帰属することは明らかである。

(二)  なお当然のことながら、宗議会が宗憲上のものか、派規則上のものかは、その決議により意思決定しようとする審議対象が、世俗的団体管理事務であるか否かにより判別すべきものであるから、前記疎明によれば、本件宗議会の招集が管長名義によりなされ、招集根拠法規として宗憲規定が表示されているが、これは右結論のさまたげとなるものではない。また、予算は宗教活動の裏付けだから、その議決は宗教活動的側面をもつため管長が招集権者である旨の被申請人竹内の主張(別紙昭和五四年五月二八日付準備書面の二(一)後段)もまた理由がないことは明らかである。けだし、前示のとおり、法はある業務が宗教法人の母体たる宗教団体の宗教上問題に係わり合いのあることを当然の前提として、この場合でもその点に立入ることなくその世俗的、組織的な面若くは部分のみを規律しようとするものであるところ、予算は、それが純粋の宗教活動のいかに重要な裏付けであつても、性質上その宗教活動と不可分一体的な事柄ではなく、それ自身はあくまで右宗教活動とは一応区別できる宗教団体の財務の運用に関する事柄、すなわち文字どおり世俗的、組織的事柄であることは明らかであるから法の規律分野であり、ひいてはその分野における派規則上の宗議会、代表役員の権限事項であることも明らかである。もし所論のように宗教関連のゆえに宗教法人法の規律対象外とするならば、同法の立法趣旨に反すること著るしく、また同法の存在意義は殆んど失われることになろう。なお、純粋の宗教的側面のみの条例等の審議のための宗議会は、宗憲上の宗議会として別個に管長の権限で招集することになろうが、本件宗議会がこれに当らぬことは前示のとおりである。

2  被申請人竹内の本件宗議会招集権の欠缺

(一)  本件仮処分申請書の「申請の理由」二2冒頭主張どおりの仮処分命令があつたことは当裁判所に顕著な事実である。したがつて、被申請人竹内は、対世的効力ある右仮処分命令により大谷派の代表役員の職務の執行停止処分を受けているため、名義の如何を問わず、権限の性質上代表役員のそれを行使しえない現状にある。

(二)  のみならず、被申請人竹内は以下のとおり管長、代表役員に有効に選任されたことがない。すなわち、<証拠>によれば、昭和五三年三月一五日付告示第一号により嶺藤亮が、大谷派宗務総長として大谷光暢管長解任及び新管長推戴のため管長推戴条例所定の門徒評議員会を招集し、同月二六日同会が開催され、大谷光暢管長を解任し、被申請人竹内を新管長に選任する旨の決議がなされたが、右門徒評議員会の決議は、委任状による出席者を含めてようやく定足数を充足させてなされたものであり、また決議方法についても反対者のみを数え、賛成者を数えなかつたため賛成者数が不明であることが明らかであつたことが疎明されるところ、管長推戴条例と宗憲の全趣旨の対比より右推戴会議においては本来委任状による出席は許されないから、この点及び賛成者不明の点の少なくとも二個の重大明白な瑕疵により右決議は無効であるといわねばならない。そうして管長解任が仮に宗憲上なしうるものとし、また管長推戴条例所定の宗議会と門徒評議員会双方の適法な決議を要するとしても、大谷光暢管長解任、竹内新管長推戴を決めた右管長推戴会議の決議は少なくとも門徒評議員会につき無効であるから全体としてその要件に欠け、無効というべく、結局被申請人竹内は管長に選任されず、ひいては代表役員の地位を取得しえなかつたことは明らかである。

(三)  以上のいずれの点からも被申請人竹内には代表役員の権限に当る本件宗議会の招集権限がない。

3  本件宗議会開催が実質的に違法でない事由の存否

(一)  被申請人竹内は、本件宗議会招集に無権限の瑕疵があつても、なお本件宗議会の開催には実質的に違法でない事由が存するとして、るるその理由を主張(別紙昭和五四年五月二八日付準備書面の二の(二))するので以下順次考える。

(1) 代表役員として瑕疵ない行為のできる者の現存しない点

所論は以下のとおり明らかに失当である。すなわち、参与会、常務員会の代務者選任決議、ついで管長解任決議により大谷光暢は、従来存した管長及び代表役員の地位を確定的に喪失したとするが、これは、右各決議が手続的瑕疵を理由に将来確定判決によりその効力を否定されるまでの間は、右地位を喪失したものとして扱うべきであるとの趣旨であるとしても、右各決議に一応の形成効を認むべき明文の規定(例えば商法二四七条二項、一〇九条)その他の法的根拠が全くなく、偶々大谷派の多数の宗議会議員、門徒評議員、内局が右地位喪失を確信しているだけで、直ちに右喪失が有効であると解することはできず、要は右各地位を喪失すべき法規上の要件が存在したか否かによつて定まるものである。従つて、所論はこの点でまず前提を欠く。のみならず、管長、代表役員が各代務者の有効な選任によりその本来の権限を失うとしても、<証拠>によれば、所論の嶺藤亮の管長、代表役員各代務者就任(昭和五一年四月一九日告示六六号)は、代務者を置く要件に欠け無効であつたことが疎明され、また所論の管長解任は手続不適法のため無効であつたことは前示のとおりであり、他に大谷光暢が管長ないし代表役員の地位を喪失した点についての何らの疎明もないので、現在においても依然同人が右地位に在るものというべく、法律的に同人が代表役員として瑕疵なき行為を行うことができるものというべきである。なお、この点は、大谷光暢が所論の離脱通知を行つたとしても、離脱が完全に発効し大谷派の管長、代表役員の地位を喪失していない以上は同様である。

(2) 本件宗議会招集の意思決定とその執行の関連性

前示のとおり宗教法人の事務については、その決定と執行は峻別され、その意思決定は責任役員の合議体がなし、その執行は唯一の執行機関兼代表機関たる代表役員のみが専有する権限(この点については責任役員は、下位的補助機関として関与しうるにすぎない)としてなしうるのであり、双方が夫々重要な組織行為であることは団体法の原理というべく、従つてその権限、効力についても、意思決定とその執行々為は別個独立に論ずべく、前者が十分に満たされたからといつて、後者の効力を補完しうるものでもない。そうだとすると、所論は右双方の効力を相互に補完的に関連づけようとする点で失当というべく、のみならず「招集」は、前示のとくり大谷派の予算という重要事項について、意思決定をなすべき機関の会議が有効に行われるために不可欠の重要な行為であることは後記判示のとおりであり、しかもこれが代表役員の専権に属する点に照らし、単なる軽徴な形式的行為ということができず、結局理由がない。

(3) 自律権に関する所論は、仮に自律権ありとしても、宗議会自身の個有の権限内のことにとどまり、後記のように、他機関たる代表役員のなす招集行為にまで及ぶものとは考えられず、他にその主張根拠乏しく理由がない。

(二)  以上のとおりで、前項所論のいずれも理由なく、さらにまた、本件宗議会が前記のとおり義務に属する昭和五三年度補正予算案及び同五四年度予算案の審議を予定している定期宗議会であり、右各予算が大谷派の今後の宗教活動の裏付けとなる重要事項であつて、その速やかな可決が必要な状況にあり、加えて大谷光暢が前記のとおり、大谷派よりの離脱を宣言しているとしても、それ故をもつて、本来招集権限のない者が右宗議会の開催を安易に強行することが、実質的に違法でないということはできない。けだし、このような状況にあればなおさらのこと、被申請人竹内並びに内局、宗議会、門徒評議員会が、前記当庁各種仮処分の趣旨及び大谷光暢の管長解任の無効理由が通常人において容易に判断しうるような明白重大な瑕疵であつた点に十分留意し来たり、宗務総長が代表役員を補佐すべき立場にある機関としての職責(宗憲一九条・派規則一二条)において十分善処すれば、大谷派の正常な事務の運営が全く期待されないものでもなく、このような諸般の事情の下においては、諸論の実質的違法性阻却のいかなる法理もたやすく見出し難いからである。

4  そうだとすると、本件宗議会は、招集権限のない者により招集されたものであり、少くともこの点でその開催は不適法かつ無効なものというべきである。

四被保全権利

1  被申請人竹内における宗議会開催権限の残存

被申請人竹内の昭和五四年五月二八日付準備書面の二、(三)の主張につき考える。

そもそも前記のとおり宗議会は会議体の意思決定機関であるから、これが活動するためには、会議体が有効に成立して始めてなしうるものであつて、機関としての宗議会の成立と、成立後の意思形成活動である会議とは区別されるところ、この機関としての有効な成立に至らしめるためには、一連の手続的な作為、不作為による行為(例えば議案と開催場所日時を宗議会議員に通知し、参集勧誘、議場の設営、必要があれば会の成立を確認し、その旨を表明する等)を要し、これは大谷派の宗議会に対し有効な成立という効力を付与する行為ともいうべき組織管理行為に当ることが明らかであるから、代表役員の業務執行権に属するというべきである。そうして右成立に至るまでの右一連の行為ないし手続が、団体組織法規上通常「招集」という用語で表現されるのであつて、したがつて「招集」は、最初になされる会の開催を通知する事務(招集事務)段階につきるものではなく、会議の成立時期までの各種行為(前記会場設営、開催通知に基づく会議の成立の過程を容認する等)をも一体のものとして含むものと解すべきである。

したがつて、被申請人竹内が本件宗議会の開催の通知を完了したとしても、同宗議会につき代表役員ないし管長としてふるまう以上、なお招集権の行使として未だ開催に関する行為が残つているものというべきである。よつてこの点の被申請人竹内の所論は理由がない。

2  被申請人両名に対する差止請求権

(一)  被申請人竹内は、大谷派管長に有効に推挙されていないのに拘らず、昭和五三年三月二六日より管長及び代表役員を僣称していたところ、同年一二月一四日以降は当庁仮処分命令により、有効に管長に推挙されていない理由で代表役員の職務執行を停止されたことは前示のとおりであるが、にもかかわらず、<証拠>によれば、同被申請人は、右仮処分命令では同派管長が宗教上の地位のゆえに同職の職務執行を停止していないことを理由に、右命令後も依然管長職の僣称を続け、管長としてふるまい、本件宗議会の招集については、真宗大谷派宗務所と印刷された用紙に「宗達第二号」の記載をなし「管長竹内良恵」の名を載せ、それに続いて、宗務総長外参務四名の名前を連ねさせており、この書面に重ねて、宗議会事務局がその印を押した用紙に宗議会議員宛に、右宗達第二号による宗議会招集についての事務連絡を記載しており、さらに、宗議会議長がその印を押してある別紙で宗議会議員宛、宗議会の招集の通知を記載している。そうしてこれらの書面をまとめて真宗大谷派宗務所の封筒に入れて宗議会議員に書留で発送している事実が疎明される。

これらの事実にかんがみると、被申請人竹内が一人大谷派とは無関係に、管長もしくは代表役員の名を一方的にかたつて、宗議会招集行為をしているのではなく、少くとも外形的にはあくまでも大谷派が自ら正規の手続に従つて適法な宗議会の開催を企図し、そのための招集行為を行つているものとみられる状況にあるというべきである。

(二)  そうだとすると、申請人らは、大谷派の構成要素というべき前記僧侶の地位として有する大谷派の適正な組織運営につき、参加協力すべき利害に基づき、違法性の大きい被申請人竹内の無効な本件宗議会の開催の差止めを被申請人竹内のみならず、同大谷派に対しても直接請求することができると解すべきである。

五保全の必要について

<証拠>によれば、本件定期宗議会では、昭和五三年度補正予算案、同年度大谷専修学院建築特別会計補正予算案、同五四年第真宗大谷派予算案、同年度大谷専修学院建築特別会計予算案等の審議が予定されていることが疎明されるところ、前示の如く、招集権限のない者によつて招集された違法性の著るしい本件宗議会において、右各種予算案、その他の案件について決議がなされても、それが法律上不存在と評価され、何人も時期方法を問わず右予算案等の決議の不存在を主張することができることとなる。したがつて、このような無効な予算案等がそのまま執行されれば、その効力が将来ことごとく覆される事態が生じることとなりかねず、大谷派には対外的にも対内的にも収拾し難い状況に発展しうる混乱が現に存在し、それによつて申請人らが前記の地位によつて有する大谷派における利害に生ずる困難ないし損害は、申請人らが、じ後の各種訴訟における勝訴判決によつても、回復しがたい現在の著しい危険ないし損害というべく、現時においてその排除の必要があるというべきである。この点についての被申請人竹内の主張(別紙昭和五四年五月二八日付準備書面の三)は、以上の判示に照らしいずれも失当もしくは独自の見解で採用の限りではない。

六結論

以上の次第で申請人らの本件仮処分申請は、被保全権利と保全の必要が疎明され、その目的を達すべき仮処分命令の内容としては、いずれも事前に、被申請人竹内に対しては本件宗議会の残余の開催行為を禁止し、被申請人大谷派に対しては、それが宗教法人として有する本件宗議会に関する開催権能それ自体を直截に剥奪することを以つて相当と解すべく、従つて、本件仮処分申請はすべて理由がある。

よつて、主文の保証をたてることを条件として本件仮処分申請はすべて認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり決定する。

(杉本昭一 千葉勝美 中村謙二郎)

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